4伊阪柊・宮坂直樹・前田耕平・ミキ仙太郎 グループ展『Shift-Shoft』

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美術・映像・パフォーマンス

グループ展『Shift-Shoft』

「Shift-Shoft」は、映像とインスタレーションを主な表現媒体とした4人のアーティスト、伊阪柊、前田耕平、三木仙太郎、宮坂直樹の作品を展開します。展覧会タイトルの「Shift-Shoft」は、鑑賞者の感覚を空間的・時間的に切り替える契機としての美術作品に因んでおり、本展の出品作は全て認識における転換を意図して制作されます。同時に「Shift」とは言語学における転換子を意味します。転換子とは、指示代名詞の「this」や「that」、人称代名詞の「he」や「she」など、発話者の文脈によって意味内容を変える言葉です。転換子は、複数の話者が別々の文脈で会話することを成り立たせる可能性を持ちます。例えば複数の人物が会話をするとき、この転換子によってそれぞれが異なった文脈での会話を継続させるという可能性を持ちます。言い換えれば転換子は、複数の文脈を橋渡しする交差点の役割を持つのです。本展の作品は、それぞれの中に美学的な転換子を持って、様々な位相で鑑賞者の認識を転換させます。同時に、それぞれの作品自体が展覧会の文脈を切り替える転換子となるのです。 展覧会場では企画者宮坂が過去に制作した「CV」という映像鑑賞装置を、本展出品作家である伊阪柊が応用した大規模な映像作品「Fault Clock」を軸に、前田耕平、三木仙太郎がインスタレーションを展開します。

「Fault Clock」(伊阪柊)※映像 地震の大半は自然に起因するが、中には意図せず人為的に引き起こされる場合もある。資源の開発やダム建設などによって、地殻にかかっていた力のモーメントがずれてしまった時に引き起こされる。例えば地盤の中の岩盤の隙間に水が注入された場合、岩盤を水が揺れ動かし、地震につながることもあれば、ダムが建設された後、大量の水が貯水されることでその周囲の地盤に負荷がかかり、断層がずれることにつながることもある。また資源開発によって大量の土砂や資源がある地域から取り除かれたことによって、通常これまでそこで押さえつけられていた力が弾み、地震につながることもある。 往復運動する球体状の塊は一種の時計の振り子のようなものとしてある。周囲の岩盤の持つ時間は人間の持つ時間からは程遠い地質学的な時間であるものの、そうした地質学的な時間と人間の時間をそれぞれ周波数の異なる波だとするなら、この球体状の塊と多様な物体とのインタラクションによって一種の「うなり」のようなものが引き起こされる。つまり二つの時間の間の差異を要約してくれるような物体、あるいは運動を覗き見ることができる。この「うなり」には観者の時間知覚を転換させる契機を孕む。これを一種の時間建築として映像を媒体にして、地下の豊富な地下水があり、周辺に活断層が存在する京都において実現する。

「A moon」(前田耕平)※パフォーマンス 現在までに、世界各国で約7500以上の衛星が打ち上げられている。空を見上げても、高速で移動する衛星を見ることができる。常に私たちは、衛星に観測され通信を受けている。それは、測られ続ける距離や時間を意味する。一つの衛星”A moon”となったアーティストは会場の他作家の作品を天体とし、観測し続ける。同時に発生する曖昧な軌跡は、目的なく浮遊するデブリ(宇宙ゴミ)である。

「身軽」(ミキ仙太郎)※インスタレーション 船が重くなり、沈みそうになったので、甲板に置いてあった石を海に投げ捨てました。 石はいくつもあり、それらを海に投げ入れるのは、とても骨が折れました。 石の量がわずかになってきたとき、突如わたしのからだが海に引きずられました。 足に目をやると、縄が巻かれていました。 海に投げ入れた石の一つが、私の足と結ばれていたようでした。 とても重かったあの石が。

「CV」(宮坂直樹)※塔、映像投影装置 CVは地面に対して垂直に映像を投射する構造体である。観者は覗き込むように映像を見る。この構造体は、構造体の上部に取り付けたプロジェクターの投射角に沿って設計されている。足場、梯子、手摺、柱は体性感覚的空間の形態を形成しており、手摺や柱は同時に映像の枠でもある。本作ではこのように、視覚的空間の形態である、プロジェクターで投射された映像の画面と、建築的要素による体性感覚的形態が適合されている。CVの観者であるとき、私たちの視覚領域はプロジェクターの画面に制限され、プロジェクターの画面と画角によって体性感覚的形態が決定される。観者が手摺から身を乗り出すと、観者の身体がプロジェクターの投射角に触れてしまい視覚的に捉えている映像の画面に作用する。プロジェクターの画面と身体とを交差させる方法は大まかに二通り考えられる。一つはプロジェクターの画角によって決定される映像の起動上に身体を置くことであり、もう一つはスクリーンに反射した映像が観者の眼に届くまでの軌道上に身体を置くことである。本作の造形状の特徴は、この二つの軌道が限りなく接近している点である。本作のように、複数の感覚的形態が合致する時、この感覚間で転換が生じる。

4人のアーティストによる展覧会『Shift-Shoft』は、言語学における転換子「Shifter」が意識されている。映像を見るための巨大な塔 『CV』 を軸に、インスタレーションとパフォーマンスが展開される。本展の作品は、それぞれの中に美学的な転換子を持って、様々な位相で鑑賞者の認識を転換させる。
  • 会場
    2F ホール
  • プロフィール

    伊阪柊

    1990年奈良県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士課程在籍。映像による環境科学と感覚認識を横断するアナロジーの作出を目指す。主な展覧会に「すべてを球くして去る波」(TATARABA、東京、2018)、「Endscapes」(アテネデジタルアートフェスティバル、アテネ、2018)など。

    前田耕平

    1991年和歌山県生まれ。2017年京都市立芸術大学大学院構想設計修士課程修了。自身の体験から巻き起こる人や物との現象をプロジェクト、パフォーマンス、映像などのアプローチを通して捉え続ける。主な展覧会に「前田耕平アワー 夜のまんだらぼ」(アートホステルkumagusuku 京都、2016)「fabric, light and dirty」(ARTZONE 、京都、2016)など。

    ミキ仙太郎

    1989年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。「境界」をテーマに、様々な角度から作品を展開する。主な展覧会に「匂いのないバラ、概ねハートマーク、バカ」(BLOCK HOUSE、東京、2016)、「身に余る皮」(SPROUT Curation、東京、2012)など。

    宮坂直樹

    1985年千葉県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了。認識の方法によって様々に現れる空間の概念を基に、空間構成を研究する。また、ヴェルニッサージュのグラスやギャラリーのベンチなど、現代美術におけるデザインを手がける。主な展覧会に「Tips」(京都芸術センター、京都、2018)、「空間越え」(遊工房アートスペース、東京、2012)など。